俺と旭さんには大きな隔たりがある。どうしても変えられない年の差ひとつ。縮まりそうにない身長差25センチ。そして計測不能な心の距離。

「旭さん、お願いがあるんですけど」
 そう切り出すと、旭さんは俺の顔を覗き込むようにして「どうした?」と首を傾げた。俺は顎をクッと上げて旭さんを仰ぐ。俺と旭さんは大人と子供くらいの身長差があるから、これでもかってくらい首を曲げないと旭さんをしっかり見られない。隣に立っていると尚更だ。でも、そうすると首が痛くなる。旭さんも俯いてばかりいるのは疲れるだろう。
「明日、泊まりに行ってもいいですか」
 旭さんは予想通りドキマギした様子で言葉を詰まらせた。思春期のお年頃で、しかも付き合って三ヶ月以上になる。さすがの旭さんも俺の言葉がどんな意味を含んでいるかわかっているのだろう。だから返答に困って赤くなっているのだ。このまま放っておいても可愛いけど埒が明かない。俺は旭さんの袖を引っ張って「誕生日プレゼント」と魔法の呪文を唱えた。
「来年まで待てないっすよ」
「西谷、でもアレは……」
「欲しいものくれるって言いましたよね。俺、無理を言った覚えないです。旭さんにしか用意できないもんだし」
 一週間前、俺は16回目の誕生日を迎えたけど、旭さんからのプレゼントは無かった。いや、正確に言えば本当に欲しいものが貰えなかっただけで、旭さんからの誕生日プレゼントはちゃんと受け取っている。西谷の趣味じゃないかもしれないけど、と差し出されたものは肌触りのいいシャツで、確かに俺だったら選ばないし買えないような、とにかくシンプルで上等な奴だった。いかにも旭さんが選んだって感じで、それはそれですごく嬉しかった。だけど俺が本当に欲しかったのは旭さんだ。なにが欲しいか訊かれたから、俺は単刀直入に「旭さん」と答えたのに、旭さんは今みたいに顔を真っ赤にしてろくに返事もしてくれなかった。だから俺はちょっと怒っているのだ。要望をわざわざ訊くんだったら応える努力をしてくれないと! なんて、そんなこと言うつもりは全然ないけど、やっぱり俺も男だし、旭さんと付き合ってるし、彼氏だし、したいって思うのは当然だ。それをスルーされてしまったら誰だって怒りたくもなるし不安になる。それは旭さんも理解しているようで、赤面して困りながらも残念そうに、どこか申し訳なさそうに俺を見るのだった。そんな顔するくらいなら素直にイエスって言えばいいのに。
「いい加減プレゼントくれないとイタズラしちゃいますよ。トリックオアトリートっす」
「西谷、それハロウィン」
 ふと旭さんの表情がゆるむ。その瞬間、俺はつま先立ちになって旭さんのくちびるを奪った。旭さんの目が丸くなる。俺は笑って、引っ張っていた旭さんの袖を離した。きっと旭さんは、自分がお菓子だってことに気づいてない。

 旭さんの家に来たのは三度目で、泊まるのは初めてだった。用意された布団に寝転がり、俺は旭さんが風呂から戻るのを待っていた。旭さんの両親は朝が早いらしく既に眠っている。十時にはもう寝室へ向かっていた。ラッキーだと思った。だって、さすがに両親が起きている時にやる勇気はない。AV見るとあえぎ声はデカいし、ベッドも軋んでうるさそうだ。今日は布団でやった方がいいかもしれない。枕元に買ってきたゴムとティッシュを並べてみる。なにか物足りない。思い出した。ローションだ。肝心な奴を忘れるところだった。床に放り投げてあったバッグを手繰り寄せ、持ってきたローションを取り出す。それを枕元に置けば準備万端。俺は満足げにひとり頷いた。
「西谷それって……」
「あ、旭さん。おかえりなさい」
 振り返ると髪をおろした旭さんが立っていた。旭さんの髪はしっかり乾いている。ちゃんとドライヤーをあてたのだろう。洗い晒しで寝てしまう俺とは大違いだ。旭さんより先に風呂から上がった俺の髪はまだ湿っていた。
 上下グレーのスウェットという面白みも色気もない格好の旭さんは、どうやら枕元に置かれた品々を見て言葉を失っているようだ。気合い入りすぎてるって引かれたかな。引くよな。初っ端からローションはヤバかったかも。けど、男同士なんだから仕方ない。男女のセックスみたいには出来ないのだ。いろいろ準備しないと絶対無理だ。俺は旭さんを大切にしたいんです。そんな言い訳じみたことを旭さんは正座しながら聞いていた。西谷が言うんなら必要なんだろうな、と納得してくれている。この人、変なツボとか買わされるタイプだろうな。将来が心配だ。俺が守ってやんなくちゃ。
「かわいいね、旭さん」
 ちゅっと音を立ててキスすると、旭さんは大きな手のひらで自分の頭を撫でた。不安だったり警戒していたり、へなちょこモードの旭さんがよくやる仕草だ。その手を取って、俺は旭さんの指先にキスした。
「突き指治ってよかったですね。もうテーピングしなくて大丈夫なんですか」
「うん。バレーやってたら突き指なんて日常茶飯事だしな。肩とか肘やっちゃう方がこわいかも」
「エースなんだから大事にしてくださいよ」
 囁いて、もう一度くちびるにキスした。躊躇いがちだった旭さんの舌がだんだん熱を帯びていく。口蓋を舐められ、ねっとり舌を吸われる。俺はくすぐったさに身を捩って、正座した旭さんの両足を開いた。奥に膝を押し当てると、膝小僧に旭さんの感触が伝わってくる。あつくてかたい。俺と一緒だ。よかった。膨張したペニスを旭さんの膝口に押しつけるように旭さんの太腿に跨がった。西谷軽い、と旭さんが笑う。小さいですから、でも苦しくなくていいでしょう。そう返すと旭さんはすこし困った顔をした。
「ちょっと罪悪感あるよ。子供に酷いことしてるみたい」
「その言い方がヒドいっすよ」
 俺はムッとして旭さんの股間をぐりぐり刺激した。旭さんの息が乱れ、俺の背中に回された大きな手がじっとり汗ばむ。俺は旭さんの髪をかきあげ、ふっと笑みをもらした。
「俺と旭さん、今は同い年ですよ?」
 それに横になってしまえば身長差なんて関係ない。
 旭さんのグレーのスウェットを捲ると、旭さんは自ら上着を脱いで俺のシャツに手をかけた。俺も素早くシャツを脱ぐ。パンツ諸共ズボンをずり下げたけど全部脱ぐまで待てなくて、俺も旭さんも中途半端にズボンを履いたまま互いのペニスを扱いた。自分ひとりじゃ味わえない快感に、若くて感じやすい俺達は呆気なく達し、またすぐに勃起した。このままだと精液まみれになって悲惨なことになりそうだ。膝に溜まっているズボンを引っ張って、もどかしそうに足を抜いた。俺も旭さんも素っ裸だ。合宿の時にも見ているから今更って感じではあるけど、状況が違うと見方も変わるのかやたらエロい。旭さんも同じ気持ちなんだろうか。俺を直視しようとしなかった。
 両手で頬を包んで無理やり視線を合わせる。ついばむようなキスを繰り返すうちに緊張がとけたのか、旭さんは俺の体に手を這わして下半身をまさぐった。俺も負けじと舌を使って愛撫する。どっちが上なのか下なのかわからないくらい転げて、じゃれ合って、キスをした。外は寒くて冬の気配がするのに、この部屋ときたらジャングルみたいに蒸し暑くて、とめどなく汗が吹き出してくる。
 俺は枕元のローションを取って、中身を手のひらに広げてみた。粘り気のある液体は見るからにやらしい。俺は旭さんを組み敷いて、ローション塗れの手で旭さんに触った。
「気持ちよさそ」
「ヤバいくらいイイ、けど……やっぱりこれって俺が抱かれちゃうの?」
 俺を見上げる旭さんの目はとろけている。乾いたくちびるを舐め、俺は笑った。
「抱きたいですよ。でも旭さんはエースだから」
「だから……?」
「我慢します。エースに負担は掛けられないんで」
「いや、この状況で我慢って言われても」
「信じられないですよね」
 裸で抱き合って、あそこをガチガチにしているのだから仕方ない。でも嘘じゃない。俺はエースを抱かない。
 俺は再び枕元に手を伸ばしてコンドームを取った。袋を開けてリングの部分をつまんで取り出す。慎重に旭さんの根っこの部分までゴムを付けると、旭さんは困惑した様子で俺の名前を呼んだ。その声を聞きながら旭さんの先端をうしろの割れ目にそっと押しつける。俺を呼ぶ声がついにひっくり返った。
「旭さん、声デカい」
「ご、ごめん。でも西谷」
「慣らしたから大丈夫ですよ」
「慣らしたってまさか」
「浮気じゃないですから。自分の指でちょっとずつね。はじめはすげえ痛くて泣きましたけど、あんまりキツいと突っ込む方も大変らしいんで。旭さんは痛くないですか?」
「そりゃあ俺は痛くないけど……」
「じゃあオッケーです」
 旭さんがごちゃごちゃ言ってるけど、よく聞こえない。腹に圧迫感がある。息を吐いて、腰を落とす。旭さんの皮膚に汗ばんだ自分の体が引っ付くのがわかる。この瞬間、旭さんと俺はゼロ距離だ。
「……痛い? 西谷、泣いてる」
 動けずにいる俺の頬を撫で、旭さんが囁いた。
「ちがいます。痛いんじゃなくて、アンタが俺の中にいるのが嬉しくて泣いてんの。わかってないなあ、旭さん」
 俺はぎこちなく体を折り曲げ、旭さんを抱きしめた。
「こうしてると俺が旭さんを抱いてるみたいだね」
 首筋にキスして甘えると、旭さんは優しく腰を揺すった。俺の内側を旭さんのペニスが擦る。抜けそうで抜けないギリギリまで吐き出して、また奥深くまでゆっくり呑み込む。そのうち旭さんの顔から余裕が消えて、俺は下から突き上げられた。
「待って待って旭さん、声ヤバい。抑えらんない。こんなデカいの慣れてないです」
「そんなこと言われたら余計に……」
「いっ……なにデカくしてんすか」
「ごごごめん!」
 旭さんは顔を真っ赤にして叫んだ。
「でも無理だよ。俺だって止まんない」
 堪えられずにもれる声をキスでふさいで、旭さんは夢中になって俺を求めた。声を殺すのは苦しいけど、堪らなく旭さんが可愛くて、俺でこんなになってる旭さんを見ているだけでイッちゃいそうだ。

 果てた俺達はゴムとティッシュを丸めて捨てて、一緒にベッドへ潜り込んだ。旭さんのグレーのスウェットに鼻先を寄せると、柔軟剤と汗のにおいが肺を満たす。旭さんは狭い、落ちると笑いながら俺を抱きしめた。体をずらして目線を合わせる。ずっとこうしていられたら、旭さんとの距離なんて感じずにいられるのに。絡まる足の、旭さんのつま先は遠い。
「でも西谷、俺達はこれがいいんだよ」
 旭さんが笑う。
「俺が攻撃で、お前が守って、名前も東と西、旭と夕で対になってるし、誕生日だって10月10日をひっくり返せば1月1日になる。身長も性格も全部デコボコで正反対で、なんかそれって二人でひとつみたいだろ」
 ああ、この人はいつだって簡単に俺のハートを撃ち抜いてしまう。俺はありったけの想いを込めて思いきり旭さんを抱きしめた。
「痛いよ西谷」
「離れたくないです」
「うん。このまま一緒に眠ろうか」
「……いいんですか? 朝になったら誰か来るかも」
「平気。鍵してる」
 へなちょこ旭さんがしっかりしている。予想外の答えに驚いていると、旭さんは小さなあくびをして俺の頭をよしよしと撫でた。
「誕生日おめでとう、西谷」
 その言葉は一週間前よりもずっと優しく耳に響いた。