別れ際、また電話すると及川さんが言った。
 及川さんと電話越しに話したのはいつだっただろう。もう思い出せないくらいだったけど、俺はハイと頷いて携帯を取り出した。
 及川さんが驚いた顔で俺の携帯を指さす。
「携帯持ってたの?」
「高校に入学するとき親が買ってくれたんです。必要ないからって言ったんですけど、帰りも遅くなるし、そのうち絶対必要になるからって」
 中学から携帯を持っている奴も多かったけど、俺は全然ほしいと思わなかった。友達も多くなかったし、学校に行けばいくらでも顔を合わせて話ができる。言いたいことがあるなら直接言えばいいし、メールをちまちま打つひまがあるならバレーの練習がしたい。きっと俺みたいな奴に携帯なんて必要ないし、たぶん向いてない。こうして携帯を持った今でもあんまり必要性は感じていなかった。
 それでも携帯が鳴ると、やっぱりすこし嬉しかった。烏野のみんなはメールをよく送ってくる。くだらない内容ばっかりだけど悪くなかった。
「これ、俺の番号。……だと思います」
 パッと明るく点灯した画面を及川さんに見せると、彼は眩しそうに目を細め、手慣れた様子で自分の携帯に俺の電話番号を登録した。
「俺のも登録してあげるね」
 俺の電話帳に新しい連絡先が一件、あっという間に登録された。魔法みたいだ。
「見事に烏野ばっかりだね」
 ひとの携帯を勝手に弄って及川さんが笑う。
「登録されてるのがお父さん、お母さんだけだったらどうしようかと思ったけど、トビオちゃんにも連絡先を交換するようなチームメイトができたんだね。友達は相変わらず居ないみたいだけど」
「ほっといてください」
「あ、音駒セッターだって。これって練習試合の相手? 名前で登録すればいいのに」
 音駒セッターの連絡先は日向から又聞きしたけど、どんな漢字かよくわからなかったし、名前もコズメなのかコヅメなのか曖昧で、自分さえわかればいいやと思って結局その登録名にしたのだった。
 及川さんから携帯を返してもらった俺は、ア行に及川の名前を見つけられず首を傾げた。不思議に思って電話帳を順々に確認していく。及川さんの連絡先は、武田、田中、月島にまじってタ行に登録されていた。
「……徹さん?」
「はあい♥」
「なんですか、これ」
「なにって俺の連絡先デショ」
 及川さんはくちびるを尖らせて胸を張った。
 俺も負けじとくちびるを尖らせて抗議する。
「及川って登録してくれないとわかりにくいじゃないですか。徹さんなんて呼んでないんだから」
「じゃあ普段から徹さんって呼べばいいでしょ?」
「今更めんどくさい」
 ひどいと嘆く及川さんを横目に、俺は携帯を弄って登録名を変更しようと試みたけれど、それもなんだか面倒でやめてしまった。