星の瞬き。花火の煌めき。瞼の裏できらきら光が揺れる。
 昨夜の出来事を夢見ながら、健二はうっすら目を開いた。見慣れた天井とも今日でお別れか、とぼんやり思う。健二は枕元に置いた携帯を開き、時間を確かめた。随分はやく起きてしまったようだ。健二はうんと伸びをして起き上がった。昨夜の騒ぎが嘘みたいに静かな朝だ。
 昨日は「明日でお別れだから」と送別の宴が催された。昼はこいこい大会で盛り上がり、夜は酒盛りと花火で賑やかに締め括られた。もちろん未成年の健二はオレンジジュースを飲んでいたけれど、大人たちは相当飲んでへべれけになっていたから、今日は二日酔いでつらい朝かもしれない。だから人の気配がないのだろう。
 荷造りでもしようかと思った矢先、微かな歌声が健二の耳に届いた。メロディーにつられて廊下に出る。誰だろう。栄の部屋の方から聴こえてくる。
 覗き込むと佳主馬が朝顔に水をやっていた。じょうろ片手に歌っている。健二も知っている曲だ。中学校の合唱コンクールで披露したから覚えている。ただ歌えるのは別パートだ。ソプラノなんて絶対に歌えない。
 伸びやかで澄んだ歌声がすうっと青空に溶けていく。佳主馬らしい凛とした響きだ。
 懐かしさに目を細め、健二は勢いに任せて佳主馬と歌声を重ねた。
 目を白黒させて佳主馬が振り返る。彼は物言いたげに健二を睨み、それでも笑顔のまま歌い続ける健二に合わせて旋律を奏でた。
 呼吸を合わせ、最後の一音を歌いあげる。二人は顔を見合わせ、どちらともなく笑いだした。
「歌うのなんてひさしぶりだ」
「突然ハモるから誰かと思った。驚かさないでよ」
「声かけたら歌うのやめちゃうかと思って」
 健二の笑顔に、佳主馬はつと目線を下げた。
「健二さんはテノールなんだ」
「習ったときは声変わりしてたからね」
「いいな。ソプラノだと女子にまざってパート練習しなくちゃいけないんだよ。ぼく以外にも男子はいるけど」
「きっと来年は声変わりしてるよ」
「そうだといいけど」
「大丈夫だよ。来年かあ……佳主馬くんはどんな風になってるのかな。陣内の皆さんは長身だから背も伸びるだろうね。会うのが楽しみだよ」
 佳主馬は目を瞬かせ、じょうろを持ち直した。この重たいじょうろも来年には軽く感じるようになるだろうか。声変わりするだろうか。わからない。でも、どうやら来年も健二と会えることだけは確かだ。
 佳主馬は空を見上げ、そっと二人で奏でたメロディーを口ずさんだ。