「健二さん、目が悪くなったんじゃない?」
「え?」
 パソコンと睨めっこしていた健二さんは、ぼくの言葉に驚いた様子で振り向いた。いつもは八の字を描いている眉毛が、今はぎゅっと寄せられて厳めしい。
「目つき悪いよ」
 指摘すると健二さんは目をぱちくりさせた。こめかみを押さえて「疲れてるのかな」とひとりごちている。疲れているのは確かだろう。でも、ここ最近の彼の目つきはどう考えても見えないひとのそれだ。眉間に力を入れてじっと目を凝らしている姿は、見ているこちらが疲れてしまう。
「メガネ掛けたら?」
「でも、ちゃんと見えてるよ」
「じゃあテスト。これは……なんて書いてある?」
 散らばっていたレポート用紙の裏に、マッキーででかでかと妹の名前を書く。
 健二さんは太股に両手を置き、すこし前屈みになりながら眉根を寄せた。目が細くなっている。しばらく悩んだ末、ようやく彼はレポート用紙になにが書かれているかを当てた。
 ぼくの「正解」という言葉を聞くなり、健二さんはガクッと項垂れて悩ましげに腕を組んだ。
「本当に視力落ちてる……」
「パソコン使うときだけでもメガネ掛けなよ。そうやって目を酷使してると、ますます目が悪くなるって佐久間さんが言ってたよ」
「面倒だなあ」
 そう呟いて健二さんはため息を吐いた。服を買うのも面倒なひとだ。そりゃあメガネを買うなんて億劫で仕方ないだろう。
 ぼくは呆れながら、それでも放っておけないので立ち上がった。
「ほら、買いに行こう」
「今から?」
「だって一人だったら絶対買いに行かないだろ?」
「まあ、それは……そうかもしれないけど…………」
 なかなか腰を上げようとしないので、ぼくはやれやれと肩を竦めた。
「メガネ掛けたら黒板がよく見えるし、そうしたら数学の授業がもっと捗ると思うんだけど」
 途端に健二さんは意気揚々と出掛ける準備を始めた。着古したシャツにくたびれたジーンズ。こうなったら新しい服もまとめて買った方がいいかもしれない。靴もボロボロだったから誕生日にプレゼントしてあげよう。
 そんなことを考えていると、ふと健二さんが不安そうな眼差しをぼくに向けていることに気づいた。
「なに?」
「メガネ、似合うかな」
「そんなこと心配してたの?」
「佐久間に笑われたことあるんだよ」
「大丈夫だよ。ぼくが似合うやつ選んであげる」
「そっか」
 健二さんはへらっと力なく笑った。眉毛はいつものように八の字を描いている。うん、やっぱり健二さんはそうじゃなくちゃね。